宮沢賢治の詩「この森を通りぬければ」
この森を通りぬければ 販売元:角川書店
(03:18)
※この作品は、オーディオブックとして発売になりましたので、ダウンロードはできません。
みちはさっきの水車へもどる
鳥がぎらぎら啼いている
たしか渡りのつぐみの群れだ
夜どおし銀河の南のはじが
白く光って爆発したり
蛍があんまり流れたり
おまけに風がひっきりなしに樹をゆするので
鳥は落ちついて睡られず
あんなにひどくさわぐのだろう
けれども
わたくしが一あし林のなかにはいったばかりで
こんなにはげしく
こんなに一そうはげしく
まるでにわか雨のようになくのは
何というおかしなやつらだらう
ここは大きなひばの林で
そのまっ黒ないちいちの枝から
あちこち空のきれぎれが
いろいろにふるえたり呼吸したり
云わばあらゆる年代の
光の目録を送ってくる
……鳥があんまりさわぐので
私はぼんやり立っている……
みちはほのじろく向うへながれ
一つの木立の窪みから
赤く濁った火星がのぼり
鳥は二羽だけいつかこっそりやってきて
何か冴え冴え軋って行った
ああ風が吹いてあたたかさや銀の分子
あらゆる四面体の感触を送り
蛍が一そう乱れて飛べば
鳥は雨よりしげくなき
わたくしは死んだ妹の声を
林のはてのはてからきく
……それはもうそうでなくても
誰でもおなじことなのだから
またあたらしく考え直すこともない……
草のいきれとひのきのにおい
鳥はまた一そうひどくさわぎだす
どうしてそんなにさわぐのか
田に水を引く人たちが
抜き足をして林のへりをあるいても
南のそらで星がたびたび流れても
べつにあぶないことはない
しずかに睡ってかまわないのだ
24.7.5
『春と修羅』第二集より
Kenji Miyazawa "Kono Mori Wo Toori Nukereba"

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