夏目漱石「こころ」第061回(下七)

「下 先生と遺書 七」
私が三度目に帰国したのは、それからまた一年経(た)った夏の取付(とっつき)でした。私はいつでも学年試験の済むのを待ちかねて東京を逃げました。私には故郷(ふるさと)がそれほど懐かしかったからです。あなたにも覚えがあるでしょう、生れた所は空気の色が違います、土地の匂(にお)いも格別です、父や母の記憶も濃(こまや)かに漂(ただよ)っています。一年のうちで、七、八の二月(ふたつき)をその中に包(くる)まれて、穴に入った蛇(へび)のように凝(じっ)としているのは、私に取って何よりも温かい好(い)い心持だったのです。
単純な私は従妹との結婚問題について、さほど頭を痛める必要がないと思っていました…。
夏目漱石の「こころ」連続読み第61回。上中下の「下 先生と遺書」の章#7(全110回)
(5:27) Soseki Natsume "KOKORO"#61
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こころ 著者:夏目 漱石 |
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