夏目漱石「こころ」第066回(下十二)

「下 先生と遺書 十二」
私の気分は国を立つ時すでに厭世的(えんせいてき)になっていました。他(ひと)は頼りにならないものだという観念が、その時骨の中まで染(し)み込んでしまったように思われたのです。私は私の敵視する叔父(おじ)だの叔母(おば)だの、その他(た)の親戚(しんせき)だのを、あたかも人類の代表者のごとく考え出しました。汽車へ乗ってさえ隣のものの様子を、それとなく注意し始めました。たまに向うから話し掛けられでもすると、なおの事警戒を加えたくなりました。私の心は沈鬱(ちんうつ)でした。鉛を呑(の)んだように重苦しくなる事が時々ありました。それでいて私の神経は、今いったごとくに鋭く尖(とが)ってしまったのです…。
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夏目漱石の「こころ」連続読み第66回。上中下の「下 先生と遺書」の章#12(全110回)
(6:06) Soseki Natsume "KOKORO"#66
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こころ 著者:夏目 漱石 |
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