夏目漱石「こころ」第069回(下十五)

「下 先生と遺書 十五」
私は奥さんの態度を色々綜合(そうごう)して見て、私がここの家(うち)で充分信用されている事を確かめました。しかもその信用は初対面の時からあったのだという証拠さえ発見しました。他(ひと)を疑(うたぐ)り始めた私の胸には、この発見が少し奇異なくらいに響いたのです。私は男に比べると女の方がそれだけ直覚に富んでいるのだろうと思いました。同時に、女が男のために、欺(だま)されるのもここにあるのではなかろうかと思いました。奥さんをそう観察する私が、お嬢さんに対して同じような直覚を強く働かせていたのだから、今考えるとおかしいのです。私は他(ひと)を信じないと心に誓いながら、絶対にお嬢さんを信じていたのですから。それでいて、私を信じている奥さんを奇異に思ったのですから…。
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夏目漱石の「こころ」連続読み第69回。上中下の「下 先生と遺書」の章#15(全110回)
(6:07) Soseki Natsume "KOKORO"#69
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こころ 著者:夏目 漱石 |
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