夏目漱石「こころ」第070回(下十六)

「下 先生と遺書 十六」
私は相変らず学校へ出席していました。しかし教壇に立つ人の講義が、遠くの方で聞こえるような心持がしました。勉強もその通りでした。眼の中へはいる活字は心の底まで浸(し)み渡らないうちに烟(けむ)のごとく消えて行くのです。私はその上無口になりました。それを二、三の友達が誤解して、冥想(めいそう)に耽(ふけ)ってでもいるかのように、他(た)の友達に伝えました。私はこの誤解を解こうとはしませんでした。都合の好(い)い仮面を人が貸してくれたのを、かえって仕合(しあわ)せとして喜びました。それでも時々は気が済まなかったのでしょう、発作的に焦燥(はしゃ)ぎ廻(まわ)って彼らを驚かした事もあります…。
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夏目漱石の「こころ」連続読み第70回。上中下の「下 先生と遺書」の章#16(全110回)
(5:59) Soseki Natsume "KOKORO"#70
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こころ 著者:夏目 漱石 |
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