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2006年12月15日 (金)

配信1周年記念「レールの上」作&朗読 佐々木健

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「レールの上」

作&朗読 佐々木健

気がついたら僕はレールの上を走っていた。
小さなお風呂みたいな鉄製の箱?その中に置かれた中世ヨーロッパのお城にありそうなハデな木の椅子に座って、レールの上を走っていた。
周りは乳白色につつまれていて、よく見えない。
前も、右も、左も、後ろも、何も見えない
ただレールの上を走るゴトンゴトンという音だけが耳に心地よい。
ハンドルがあるわけでもないし、レバーとかメーターとかいうものもない。
スピードはそんなには出ていないけど、立ち上がると少し怖い感じで、立って入られない。箱につかまっていないと落ちてしまいそうだ。
箱は平坦な道をどんどん走って行く。
しばらくすると白い乳白色は終わりを告げ街の中を走っていた。
横を見ると同じくらいの年の子供達が一人ずつ、僕のと同じような箱にのって走っている。何人も何人も。レールは複雑に入り乱れ交差している。時々ふざけてぶつけあっている子もいる。
何人かの子供が話しかけてきた。へんな椅子って。その子達の椅子は学校の机についているパイプと木でできた椅子だった。確かに、何だか箱にはそぐわない椅子だ。
僕は他愛もない返事をひきつった笑顔で返した。
ここはどこだろう?僕は今年37才になった。鏡はないけれど、自分の体がいつもと同じ37才であろう事は、この肉体を見ればわかる。
昨日は、確か深夜に家に帰り作業をして、そのまま寝てしまったように思う。
服は昨日のままだ。
たくさんの子供達の箱に抜かれて行った。
僕はその時、見た。確かに見た。箱に乗らずに走っている子供がいた事を。たった一人だったけど、すごく汗をいっぱいかいていたけれども、誰よりも楽しそうに、イキイキと走っている子供を。
僕の箱は、だんだんとスピードを落として行った。それと同時に再び乳白色に包まれて行き、もう子供達の声も聞こえなくなった。気配すら感じない。ゆっくりゆっくりと、そして最後に静かにとまった。
僕は立ち上がり周囲に危険がない事を確認して、箱を降りてみることにした。
降りる事は簡単だった。ひとまたぎで箱の外に出られた。
僕が降りると箱は1人でにすぅっと動き始めた。あっと思ったが、僕はもう箱に乗りたいとは思わなかったので、そのまま箱を見送った。
行ってしまった。
乳白色に包まれ、僕はひとりになった。
その時、声がしたんだ。
「やっと追いついた」
振り返ると、そこには僕がいた。
いや、正確には、子供時代の僕がいた。小学生低学年ぐらいの僕だ。
不思議だけど、僕だってわかる。ここに僕はいるのに、目の前に子供時代の僕がいる。
どうやら走って来たらしく、軽く息があがっている。僕は喘息持ちだったから、息が苦しそうだ。吸う時に、口を開き胸があがり音をたてて息を吸った。
自分とこうして向き合うというのはおかしなものだ。わけがわからなかったけど、僕はその子の背中に手をおいた。その子は、僕のもう片方の腕をつかんだ。楽しそうな笑顔だ。水はないかと探したが持っている訳もなかった。
こういう時、僕は言葉がでない。何か聞きたいことはたくさんあるはずなのに。
何となく気まずい感じがして、最初に出た言葉は、「僕?だよね」だった。
その子は、無言で息を整えながらうなずいた。いい笑顔だ。
そう思った途端。彼はすうっと消えてしまった。いや、僕の中に入ってきたと言った方がいいだろうか?
僕は満ち足りて涙が溢れてとまらなかった。
僕は、自分の目的を思い出した。
行かなきゃ。
小さい一歩を踏み出した。それは、永遠に続く大事な一歩だった。


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配信1周年記念オリジナル作品

(8:07) Takeshi Sasaki "Rail"


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